大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和61年(く)59号 決定

被告人 小松隆 ほか二人

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、被告人三名の弁護人高橋南海夫作成の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用するが、論旨は、要するに、原裁判所は、原審第一回公判期日が終了した昭和六一年五月一六日、被告人三名に罪証隠滅のおそれがあるとして、同年七月一〇日まで被告人らと刑事訴訟法三九条一項に規定する者以外の者との接見等を禁止する各決定をしたが、すでに第一回公判期日が終了した現在、被告人らが実効ある罪証隠滅行為に出るとは考えられず、またこれ以上面会禁止の苦痛を被告人らに与うべきではないから、すみやかに各原決定を取消されたい、というのである。

よつて、記録を調査し、検討するに、本件は、暴力団会津小鉄会系小若会岡田会の組員である被告人三名が、同会会長岡田満と共謀のうえ、同人から融資を受けた債務を返済しないまま行方をくらました会社社長の所在を追及すべく、同会社従業員である本件被害者を呼び出したうえ、同人に対し交々殴るける等の暴行を加え、同人に頭部挫創等の傷害を負わせ、更に右岡田において本件被害者にけん銃を突きつけて脅迫したという傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反の事案であるが、被告人三名は、いずれも、右と同旨の被疑事実により昭和六一年三月二七日勾留され、同日付で期限を起訴時までとする各接見等禁止決定がなされ、同年四月一五日本件公訴事実につき起訴され、同日付で原審第一回公判期日を期限とする各接見等禁止決定がなされ、更に、同年五月一六日の原審第一回公判期日終了後同日付で右期限を同年七月一〇日までとする本件原決定である各接見等禁止決定(以上いずれの接見等禁止決定も検察官の請求に基づくものである)がなされたこと、右第一回公判において、被告人らは一部書証についてのみ同意し、本件被害者及び犯行目撃者の捜査官に対する各供述調書をはじめ、本件公訴事実立証に不可欠な重要証拠についてはすべて不同意としたため、第二回(同年六月二六日)及び第三回(同年七月一〇日)公判期日において、先ず本件被害者の証人調が予定されていることが明らかである。

しかるところ、被告人らは、右岡田が本件犯行現場に居て本件被害者に暴行を加えたり、けん銃で脅迫に及んだ事実等をことごとく強く否認しているほか、被告人三名による暴行自体についても、相互にちぐはぐな供述をしたりしていて、要するに、本件犯行の共謀者の範囲、本件被害者に対する暴行、脅迫の態様、程度、本件主謀者と目される右岡田の犯行への関与の有無等、本件犯行の状況全般にわたり、被告人らと本件被害者の供述相互間に大きな食い違いが存するほか、被告人ら相互の供述内容にも食い違いが存すること、右岡田は病気入院を理由に未だ逮捕、取調べに至つておらず、また本件犯行に使用されたとされるけん銃も未発見であることのほか、右岡田及び被告人三名はいずれも暴力団組員であり、本件被害者は現在においても被告人らを強く畏怖していること等に徴すると、第一回公判を終了したばかりの現段階においては、未だなお相当強度の被告人らによる罪証隠滅のおそれが存在するものと認められ、これに原審における本件公判審理の状況等をも併せて考慮すると、被告人三名につき、罪証隠滅のおそれがあることを理由に、刑事訴訟法八一条により、本件被害者の証人尋問が終了する予定の原審第三回公判期日(同年七月一〇日)までを期限として、各被告人と同法三九条一項に規定する者以外の者と接見等を禁止した各原決定は、いずれも相当であつて、論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法四二六条一項により本件各抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 家村繁治 田中清 久米喜三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例